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東京高等裁判所 昭和36年(ネ)800号 判決 1967年6月27日

控訴人 西庄株式会社

被控訴人 日本橋税務署長

訴訟代理人 川村俊雄 外五名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、西川不動産が昭和二十七年三月一日から同年八月三十一日までの事業年度(以下本件事業年度という)の所得に関し原判決別紙第一目録記載のような計算(貸方欄の長期借入金の内訳は同第二目録記載のとおり)により、缺損五十五万八千五百円として同年十月三十日被控訴人に対し確定申告をしたこと、これに対し被控訴人が昭和三十年六月二十日附で同第三目録記載のような加算、除算の計算のもとに当該所得金額を四千四百三十九万六千四百円、法人税額を一千八百六十四万六千四百八十円とする更正処分および過少申告加算税額を九十三万二千三百円とする決定(以下これを併せて本件更正処分という)をして西川不動産に通知したこと、右第三目録記載の加算除算一覧表のうち、加算の部の「架空借入金否認(土地売却益計上洩)四五、〇〇〇、〇〇〇円」とあるのは、西川不動産が被控訴人に対し白木屋からの借受金として確定申告をした「昭和二十七年八月二十六日成立、金額四千五百万円、無利息、無担保、返済方法二十年間据置、二十一年目から毎年その百分の二ずつを支払う旨の消費貸借」を指すものであり、被控訴人がこれを借入金としては架空のものであり、むしろ土地売却益とみるべきものと認定し、西川不動産の所得計算上これを加算して本件更正処分をしたこと、そこで西川不動産は法定期間内に東京国税局長に対し審査の請求をしたところ、同局長は昭和三十三年一月六日附で審査請求を棄却する旨の決定をしたこと、ならびに西川不動産が昭和三十七年九月一日株式会社西川商店と合併し、同日その商号を西庄株式会社と変更したことはいずれも当事者間に争いがない。

控訴人は、本件更正処分にあたつて被控訴人がした所得計算上の加算除算のうち右借入金の否認以外はこれを争わないと主張するので、右の借入金を否認してこれを所得金額に加算した本件更正処分の当否について判断する。

成立に争いのない<証拠省略>を総合するとつぎの事実を認めることができる。

西川不動産は、昭和二十五年頃控訴人主張にかかる場所に西川ビルデイングの建築を始めたが資材の急激な値上り等のため資金に不足を来し、昭和二十七年二月頃にはその額が八千五百万円以上に達したので対策に苦慮し、その所得にかかる原判決別紙第四目録記載の土地建物(以下本件物件という。)を他に売却処分しようとしたが、右土地(以下本件土地という。)の上には建物が存在し、かつその建物には株式会社伴伝商店(以下伴伝商店と略称する)他数名の借家人が居住占有していたばかりでなく、同年一月には東京高等裁判所において本件物件に関し伴伝商店のために被控訴人主張のような内容の借地権および借家権を確認する旨の決定がなされるに至つたため、西川不動産はいつそう窮地に立ち、本件物件を有利に処分することは因難と予想されていた。他方において、白木屋は、かねてから店舗の拡張を計画し、隣接地である株式会社伴伝(以下伴伝と略称する)の所有地を買収することを熱望していたが、伴伝においては他に適当な移転先があれば買収に応じてもよいという意向であることが認められたので、白木屋としては伴伝の移転に適当な土地を鋭意物色していた。ところが、たまたま右伴伝は、前記伴伝商店と代表取締役を同じくする同系会社であつて、もし本件土地を白木屋が西川不動産から買収するならば、これと前記伴伝所有地とを交換してもよいとの意向があることが窺われたので、西川不動産、白木屋ともにこれを幸いとし、双方に出入りしていた不動産仲介業者である訴外藤本利男を介して同年春頃から、本件物件の売買交渉を開始した。その交渉の過程において、西川不動産としては、前記のような資金需要の関係から、当初は売買代金として一億円を主張し、他方白木屋としては、対価の可及的低廉なことを希望し、約半年間折衝が続いた。その際、西川不動産においては、最低限度八千万円を現実に入手できなければ、本件物件を手放さないという確固たる意思があつたのに対し、白木屋としては、自己の店舗拡張計画達成という焦眉にして重要な目的を実現するために、伴伝に他へ移転することを懇請するという立場にあつたばかりでなく、前記のような伴伝商店と西川不動産との関係、また伴伝と伴伝商店との特殊関係を勘案すると、この機を逸しては当時他にこれ以上好条件の土地を求め得られる見通しはつかない状況にあつたので、結局、同年八月初頃にいたり、白木屋は西川不動産の要求を容れ、本件物件を総額八千万円で買受け、かつ本件土地建物の占有者の立退問題も白木屋側で処理解決するということに両者間でいちおう話がまとまつた。そこで、まず同年八月九日白木屋と伴伝との間において、白木屋は、西川不動産から本件物件を買収した上、これと伴伝所有の東京都中央区日本橋通一丁目九番地ノ一、宅地百五十八坪七合一勺(白木屋との隣接地)およびその地上に存する建物その他の物件とを無償で交換する旨の契約書<証拠省略>がとりかわされた。ところが、西川不動産は、前記白木屋から受領すべき本件物件の対価八千万円を全額売買代金として受領したのでは、これに対する租税負担が多額となり、西川ビル建築資金の不足補填という当初からの目的が達成できなくなつてしまうことを惧れ、当面の租税負担を回避する方法を検討した結果、本件物件を再評価した原価が三千二百万円程度と計算されるところから、右八千万円のうち三千五百万円を売買代金として授受し、その余の四千五百万円については、これを長期借入金名義とする方法を案出し、白木屋の諒解を求めたところ、前述のように白木屋としては、既に本件物件を入手するため買受代金として八千万円を出捐することを承諾していたので、その一部である四千五百万円につき長期貸付金の形式をとることについては別段異議を述べることなく、同年八月二十六日その旨を記載した「不動産売買並に金銭貸借契約書」<証拠省略>に調印した。

以上認定の事実に後記認定の事実を併せ考えると本件物件の譲渡に関し、西川不動産と白木屋との間に成立した売買契約は、これが最終的に成立した時期が前記契約書の作成された昭和二十七年八月二十六日であるとしても、当事者間の真意は売買代金を八千万円とするものであつたと認めるのが相当であつて、右の八千万円のうち四千五百万円についてはこれを消費貸借とする旨の契約書の記載は両者の通謀による虚偽の意思表示であつて無効というべきである。

控訴人は本件四千五百万円の貸借は、本件物件売却の一条件として白木屋から原告に貸与されたもので、売買代金と不可分の関係にはあるが、控訴人には、建築資金調達のために、右金員を借入金とする必要と実益があつたのであり、このようにすることは売主側の利益に反するのではなく、当事者の真意に基づいたものであつて、虚偽、架空のものではないと主張する。しかしながら、成立に争いない<証拠省略>を結合すると、白木屋としては隣接の伴伝所有地を入手するについて八千万円以上の費用は予定していたのであつて、同土地と交換すべき本件物件の買受代金は低額にとどめて、これを超える金額は貸金とすることを希望したわけではなく、四千五百万円が貸金として返済されることを期待していたものでもなく、同社の経理面においても右四千五百万円を当初は貸付金とせず、建設仮勘定中の本件不動産買入代金の一部として処理していたことが認められる。<証拠省略>によれば、白木屋は昭和三十二年七月になつて右の四千五百万円を本勘定に移し、長期貸付金として帳簿処理をしていることが認められるが、右の帳簿処理は、その時期からみて、白木屋が右の金員を西川不動産に交付した当時の意思を表わすものとは認めがたい。)。さらに、貸金債権といわれるものの内容は成立に争いのない甲第三号証によれば、無担保、無利息、二十年間据置、五十年間均等年賦償還というのであるから社会常識上異例であり、経済的にはその価値を極端に低下させていることは明らかである。一方、原審証人中田専二の証言によれば、貸主とされる白木屋は右の資金を銀行から借り入れているにもかかわらず、八千万円中貸金の占める割合その利息、返済方法等についてはなんら検討したことがないことが認められ、また、原審証人藤本利男の証言および同証言により真正に成立したと認められる<証拠省略>によると、本件売買取引の仲介をした不動産業者である藤本利男が、伴伝の代理人として本件土地占有者たる新宿ふじ他四名に対して立退料を支払うに当り、この費用も白木屋が負担したが、その一部を占有者に対する貸金に仮装し、将来その返還を請求しない旨の念書をさし入れている事実が認められること、および成立に争いがない<証拠省略>を総合すると本件不動産の昭和二七年八月当時の価額は八千万円を下ることはないと認められることなどの事実を彼此結合すれば、本件消費貸借は前記のとおり仮装であり、四千五百万円は本件物件の売買代金の一部と認めざるをえない。

<証拠省略>の結果中以上の認定に反する部分は採用しない。

してみれば、前記のような控訴人の確定申告に対して、借受金名義の四千五百万円を本件土地の売却益と認めてなされた被控訴人の本件更正処分は正当であると認められ、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当というべきである。よつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却するものとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 西川美数 上野宏 外山四郎)

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